5:唇から覗く舌
その仕草に、ドキリとした。
ごく普通の、何気ない仕草に。
久しぶりの休日だった。
二人で出かけ、いくつかの店を回って買い物を楽しんだ。
何気ない日常。
仕事と言う名の事件に追われ、こんな穏やかな時間をふと幸せと感じる一瞬。
「喉渇いたなぁ。何か飲もうか」
そう言って入った店は女性が多い所為か、ちょっとした喧騒に俺は少し眉を寄せたが、
「ここの珈琲、美味しいって聞いたんで、一度来てみたかったんや」
などと服部が言うものだから、ついつい惚れた弱みで黙ってテーブルに着く。
これが所謂「尻に敷かれている」と言うヤツだろうか…。
俺はシンプルに珈琲を、服部はカフェオレとショートケーキを注文する。
「人の多い日曜に出歩くやなんて久しぶりやモンなぁ。ホンマ、疲れたわ」
そんな時は甘いものが一番だと、そういう理屈でケーキを注文したらしいが、単に隣のカップルが食べていたのが美味しそうだったからだという事は、推理をしなくても分かる事実だ。
それにしても、かなりお洒落な店の中、いい年をしたヤロー様の二人連れと言うのは全くと言っていいほど見かけない。
何処を見回してもカップルか、女性同士か…。
その所為で、先ほどから視線を受けまくっている。
そんな熱い視線を全く気付いてもいない服部はというと、運ばれてきたちょっと大振りのケーキにさっそくフォークを差し込んで、見るからに甘ったるそうな真っ白な生クリームに、嬉しそうに被りついた。
その無邪気な姿が可愛いと、密かに周りがはしゃいでいる。
自分に向けられる視線に対しては、全くと言っていいほど気にはしないが、服部に向けられる視線と好意には非常にムカつく。
心が狭いといわれても「だから何なんだ。これは俺のだ!」と、叫んでしまいたい心境に駆られる。
大人気ないとか、男のクセに心が狭いなどと言われたって構わない。
服部の隣に立って一生堂々としていられる男になる為に、その為の努力だってしてきたのだ。
アリのように群がってくる(本人だけが群がられているコトに気が付いていないのだが)下心満載のヤツラどもを、無言の圧力で蹴散らせるほどには。
無意識に笑顔を振りまく、このやんちゃ坊主な小悪魔服部を、自分のモノだけにしておくために。
まぁ、俺がこんなことを日々考えているなどとは、こいつはちっとも思っていないのだろうなぁ。
だからこんな無防備に、そんな事を俺の目の前で平気でやってくれるのだ。
生クリームがたっぷりとついたその塊を、大きいまま口に運ぶ。
当然の結果として、はみ出したクリームが口の周りに付いてしまった。
そしてそれを無造作に、そのまま舌を出してペロリと舐め取ったのだ。
昨夜の行為を彷彿とさせる仕草でもって…。
真っ赤な舌が、口唇から幾度も覗く。
一瞬、俺の背中をゾクリとしたモノが走りぬけた。
俺のモノを喉の奥まで咥え込み、必死に全てを嚥下した。
けれど飲み込みきれなかったソレが口の周りを彩ると、離した後も糸を引き、無意識に口唇を真っ赤な舌が舐め取った。
既に悦楽の渦に染まっている姿は、俺の快楽中枢を更に刺激し、突き上げたい衝動を加速させた。
本能が俺を支配し、服部は甘い声を上げ続けた。
幾度も、幾度も。
「工藤?」
いきなり名前を呼ばれ、俺は甘い夢から一気に現実に引き戻された。
全部を綺麗に平らげた服部が、不思議そうな顔で俺を見ていた。
明るい日差しの差し込む店内で、そのこには全くと言っていいほど似つかわしくいない思考に浸っていた俺。
「なに、ほうけとるんや。コーヒー、冷めてまうで」
誰にでも好かれる、いつもの笑顔。
「そうだな」
けれど思い出してしまった欲望の炎は、簡単には消えてくれそうにはない。
そう。
たった「それだけ」の仕草に、欲情した自分がいたのだった。
カップを手に取り、解放の場所を思考する。
常識の勝る、服部の抵抗を封じる手立てと共に…。
END
2007/03/27脱稿
テーマは新ちゃん嫉妬する…でしょうか?
でも、自分も騒がれている原因の一部だということに、実は気が付いていないマヌケな新一なのでした。
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