お題【02】NUIGURUMI

いつもの如くのオレ様口調で「おなかが空いた」と開口一番、自室のドアを開けたハボックに向かい言いきったロイの言葉のままに、何故なんだという思いを抱きながらも『仰せのままに』とキッチンに立ち、黙々と食事の支度をしていたのだった。

そして残り物と、冷蔵庫の中にあったもので素早くロイ好みのものを作り上げると、言葉の通り腹を空かせて不機嫌で待っているであろうロイの元へ運んでいったのだが…。

 

ハボックは目の前の情景を信じられない思いで見つめてしまった。

いや、確かにそれの持ち主は自分なのだが…。

制服姿のロイは襟元を簡単に寛げただけで脱ぎもしないまま、1Kのハボックの部屋のその半分近くを占めているベッドに上半身を倒して、眠りこけていたのだった。

しかもその腕には、大きなクマのぬいぐるみを抱きかかえながら。

まるで子供がお気に入りのぬいぐるみを抱いて、満ち足りた顔で寝ているように幸せそうに。

ハボックは手にしていたトレイをテーブルの上に置くと、ロイに近付く。

すぐ横に立って見下ろすとやはり疲れが溜まってるのだろう。

お世辞にも顔色が良いとは言えず、目の下にはうっすらとクマができていた。

「そんなに疲れてるんなら、無理して俺ンとこに来なくても…」

片膝を折って顔を覗き込むように屈むと、隠すようにその顔を被っている髪を片手で掻き上げながら、そのまま優しく頭を撫でるように艶々と光る髪の中を泳がせた。

頼られる嬉しさを無理をされる辛さがハボックの心の中で入り混じり、堪らなくなる。

「別に無理はしていない」

いつの間に起きていたのか、目を瞑ったままのロイの口唇が突然動く。

「いつでも美味しいものをご馳走する、と言ったから来ているだけだ」

いつもは細い目が、眠さの所為か二重になってパチリと開き、ハボックの両の目と合わさる。

「大佐…」

一瞬で濡れたようなビロード色した瞳に、全てを捉えられてしまい手足を拘束されているわけでも無いというのに、急に身動きが取れなくなったような気になってしまった。

それなのにロイの髪の中に埋めていた手は、それらを無視して勝手な動きを始めてしまう。

首の後ろに移動して行くと、ゆっくりとその頭を引き上げながら空いているもう一方の手は腰に回っていた。

そうなると身体の方は瞳に吸い寄せられるようにロイの方へと近付いて行ってしまう。

薄くひらかれたままのロイの口唇が、直ぐそこにあった。

互いの息使いが身近で感じられる距離。

「…ハボック」

半分身体の浮いたロイがその名を呼ぶ。

そして、いきなりその顔にクマが押し付けられた。

「メシ!

その後ろからは確かなロイの声。

ロイが勢い良く立ち上がり、反対にハボックがベッドにうつ伏せに沈んでいった。

かなり、眠り姫状態だったロイに酔っていた(であろう)ハボックは、今度は自分の下にいるクマに両腕を回してシクシクとわざとらしく声に出して泣きだした。

そんなハボックは完全無視なのか、勝手に何故か窓際に置いてあったイスを引きずってきてはひとり座り、テーブルの上に置かれたままのトレイを引き寄せると豪快にパクついた。

「そんなにそのクマが気に入ったのか」

モグモグと口を動かしながら、それ…クマがハボックのモノになったくだんの件を思い出し、つい笑ってしまった。

「良かったな。好きな奴の所にもらわれて行って」

この部屋には全くもって不似合いなこと、この上ないが…。

「うん、よかったよかった」

ますますハボックは涙にくれる。

 

02END

2004/07/03脱稿

 

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