いじわるな指先

 

  「ほら、観念して、さっさとベッドに上がれって」

 一条は大きくため息など付きながら、かなりの苛立ちを含み今にも怒り出しそうな椿の言葉に
渋々ながら半分だけ従って、どうにかやっと診察台の上に腰を降ろした。

「もういいよ、椿。このくらいでさ。時間も無いし、終わりにしよう」

 深く座った所為で膝から下がプラプラする状態で、上目づかいに椿の様子をうかがいながら、
そんな事を言ってみる。

「ばかか、お前はっ!」

 そんな子供のような我儘な言い分に、案の定椿のお怒りをくらって肩を落とす羽目になる。

「誰の所為で、この俺がこんな時間に一人でお前の健康診断をする羽目になったと思ってるん
だ?この口が原因だろうに!」

 椿は目の前に仁王立ち状態で立ち塞がると、一条の片頬をぎゅとつまんで引っ張った。

「いてててっ・・・椿ぃ、痛い」

「痛くてあたりまえだ!痛いようにやっているんだからな!」

 椿が頬を放した瞬間、慌てて頬を手で抑えて擦りながらちょっと拗ねた口調で抗議する。

「そんなに怒らなくてもいいだろう。一人で全部やるのは大変だから、簡単にやってくれれば
良いって言っただけなんだから」

 親友と二人だけだという安心からからか、未確認を追う時のようないつもの緊張感も無く、
すっかり我儘をいい放題な状態になってしまった一条。

「まだ言うのかお前は!本庁に出す健康診断書に、適当が許されるか!それに後で何かあっ
てみろ、俺の腕を疑われるだろうがっ!」

「そうか?お前、既に本庁内じゃぁマッド扱いされてるから、今更だろう?」

「誰が言い出しっぺで、誰が広げたんだぁ?」

「まぁ、細かいことは気にするなよ椿」

「……それなら気にしないついでに、ちゃんとしっかりと、完璧に検査を受けていけ自分の身
体が絶対に大丈夫だなんて過信してると、そのうち偉い目にあうぞ」

「ちぇっ、分かったよ。そのかわりさっさと終わりにしてくれよ」

 誰の所為で次の検査に入れずに時間が押しているんだと、心の中だけで椿は毒付きながら、
背凭れの無い丸い椅子にドッカリと座る。

「ほら、横になれ」

 まだ往生際悪く診察台に座った状態のままの一条に、更に催促をかける。

「でもさぁ、椿…」

 それでもまだ更に言い募ってくる一条に、心底この先の検査を受けたくない様子が、椿には
手に取るように分かってしまうのだが、だからと言って言うなりにしてやるわけにはいかない。

「一条…ここまで来てジタバタしたって仕方がないだろう。お前が他の人間じゃあヤダって言う
から、検査は何から何まで俺が引き受けたんだし、看護婦も退出させたんだ。これ以上は譲れ
ないぞ」

 レントゲンだけは専門の技師が必要な為残ってもらったのだが、それ以外の全ての検査は
椿がほぼ一人で受け持っていた。
 本来看護婦がするような血圧を測ったり、血を抜くなどの細かなことまでやらされ、椿としても
さっさと終わりにしたいのは山々なのだ。それを最後の検査でグズグズと言い募る一条に、さす
がに椿も切れ始める。

「でもな…椿」

「あのな、一条。本当ならこの時間は、とっくに帰ってる時間なんだ。しかも今日は女子大生コン
パニオンとの合コンもキャンセルさせられて、男の生理を解放させる機会を今回もまた逃しち
まった。この年で、右手が俺の息子の唯一の共ッていうのは完璧に勘弁してほしいんだけどな」

 そこまで言われてしまうと、一条はそれ以上を言うことが出来なくなる。

「…なんていうのか…その、ごめん」

 何故か一条がモジモジしながら赤くなり、俯き加減になってしまう。そんな一条をちょっとシニ
カルな笑みで見つめていたが、素早く医者の顔に変化させる。

「分かれば良いんだよ。じゃぁさっさとやろう。横向きに寝て」

 言われるままに診察台の上に横になると、椿に背を向けるように横向きとなる。

「ちょっと膝を抱えるように膝を折って、そう」

 椿は薄手の検査用のゴムの手袋をパシンッと小気味の良い音を立てて嵌めると、一条の着て
いる検査着の裾を捲る。

「うわっ!椿!」

 慌てて手で裾を抑え込み、飛び起きる。

「なにを今更俺相手に恥ずかしがってるんだ?それにこうしないと検査が出来なだろうに」

「でも…」

「……なんなら担当の専門医呼んで来ようか?今日はまだいるはずだからな。でも若い女医だ
ぞ、良いのか?」

 決してYES!と言えないと分かっていて、そんな意地悪を言ってみる。

「………分かった……」

 かなり渋々というのと、いくら相手が医者だからといって、そんな所を見せなければならないと
いう恥ずかしさを全身から表しながら、一条は再び寝台に横になる。

「さっさと済ませてくれ」

 そんな威張ったような台詞も、検査着姿でしかも眉間にトレードマークの皺を刻み込んで言う
のでは、あまり迫力は無い。

「それはお前の協力次第だな」

「…できるだけ…努力はする」

 枕に頭を乗せ、その端をちょっと抱えるようにしながらぎゅっと目を瞑る一条の姿を見た椿は、
ふっと悪戯心が湧いてきてしまうのを医師の理性でちょっと押しとどめた。

「始めるぞ、いいか?」

 コホンと咳払いを一つしてから、そう一条に声をかける。

「…いつでも、いいぞ」

 強張ったような声に、椿は噴き出しかける。

「ほら、真っ直ぐ横になって寝ないで、ちゃんと少し膝を抱えるようにしてくれ」

 椿の出す指示に従って、目を瞑ったままの一条が胎児のようなスタイルで診察台の上で無防
備にも横になる。

「それじゃぁ」

 ちょっと笑みを浮かべた椿は、そう言って一条の検査着の裾を今度こそ捲り上げる。

 その動作に一条の体がピクリと反応を示す。

 しかしそこで椿のガックリとし、息の抜けたような声が室内を通り抜ける。

「何でパンツ履いたままなんだ?」

 裾を持ったまま椿は呆然と呟いてしまう。

「えっ?だって…いくらなんでもノーパンは恥ずかしいからさ…」

 少し上半身を起こした一条は、ちょっと赤くなりながらそんな事を平然と椿に言い返す。

「ばかか、お前は?医者や看護婦相手に何ほざいてるんだ?ついさっき看護婦に脱げと言わ
れたばかりだろう。しかも恥ずかしいからって看護婦さえも人払いしてやったっていうのに…」

しかし当然椿には怒られてしまう。

「でも、椿…」

 それでも言い返そうとする一条を遮って、ついに椿は切れる。

「もういい!そんなに言うなら、今ここで俺が脱がしてやる!」

 パンツのゴムに手をかけると、グイとばかりに引き降ろしにかかった。

 
 

2002/03/31 脱稿  

 
 

               

やっと久々に21話しです。しかも椿センセ、医者の役得バシバシ使って…まだ、いませんが、これから頑張って使って頂きます、はい。
なんたってタイトルに「指先」とか入れてありますもの♪これじゃぁ、もう使わなきゃぁ。黄金(???)の指先(^-^)/
ってことで、この続きは《大浴場》内でUP!する予定ですので、しばらくお待ちくださいm(__)m…なんせ、GW用のコナン本の原稿が控えているんで…。

 

 

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