≪君のいる時間(とき)≫
あいつはいつも「大丈夫」だと言う。幸せそうに微笑む笑顔と何の根拠も無いその言葉を、つい信じてしまう俺たち。「みんなの笑顔が見たいから」…だから戦うのだと、拳を使うのだと言いきる。
そしてその結果、あいつを失いかけた。
その時の俺の心をどう表したら分かるだろうか?悲しみ? 後悔? 絶望感? いや、言葉でなんて伝えられない。何故あいつを巻き込んでしまったのだろう。何の関係も無かった、ただの冒険好きの男を、どうしてこの戦いに引きずり込んでしまったのか…。そんな思いが一気に押し寄せ、俺を押しつぶしてしまいそうになる。
外環から閉鎖された空間で、一人聞いた電話の向こうの聞きなれたいつも俺を安心させてくれる友人、椿秀一の声もかすかに震えていた事を今になって思い出す。たぶんそれが、後一歩で不様にも叫びだしそうになっていた俺、を押しとどめてくれたのだろう。いつも、誰よりも余裕をもって生きているような男でさえ、『五代雄介の死』というものに動揺するのだと…。
こんな仕事をしていれば『人の死』と言うものに、日常茶飯事で出会って居るというのに決してなれることは出来ない。ましてや、自分の良く知る人物であり、自分の所為で巻き込んでしまった為に起こった『死』となると…。こんなにも自分が弱く脆い人間であると言うことを思い知らされてしまう。そして、何もしてやれなかった自分に対し嫌気さえ沸いてくるのだ。
「完璧な人間なんて何処にも居ないさ」
顔に出していないつもりだったが、長い付き合いの椿には落ち込んでいるのが分かってしまっているようだった。
「だから人は完璧を求めて努力もするし、頑張れもする。そして自分ひとりではどうにも出来ない時には、それを補ってくれる人物が必ず存在する」
そう言って、氷も入れずになみなみとグラスに注がれたブランデーを渡された。それを一気に飲み干してしまうと、また注がれる。普段だったら無茶な飲み方はするなと止められるはずが、椿も同じように酒を煽っている。
床に座ったまま、居間のソファーにだらしなく寄り掛かり、二人で空のビンを大量生産して行く。
「五代の生き方は五代のものだ。あいつが考えて、自分で納得してやっている。たとえお前であっても口出しは出来ない。いくら見ているのが苦しくても辛くても、それはヤツが決めた生き方だからな」
「本来なら、それは俺がやるべき事だ。あいつのやることじゃない」
「それでもだ。あいつが選んだんだ」
「しかし…」
「あいつが『戦う』という事を否定するな。それはつまり、五代自身の生き方を否定することになるんだぞ」
椿は更にサイドボードからビンを取り出してくると自分のクラスを満たし、一気にそれを空にした。アルコール度数の高い酒が、咽を焼いて流れ落ちて行く。
「たとえそれで死ぬことになってもな」
「椿っ!!」
「今回のようなことが再び無いとは限らない。相手も着実に強くなっているのは、お前にも分かっているだろう」
一条のグラスを持つ手が微かに震える。考えまいとしていたことを椿に言い当てられ、酒の所為も手伝ってか自分が制御できなくなってくる。そして思考がストライキでも起こしたのか、何故か視界が歪みはじめ、気付くと目頭が熱くなり涙が自覚する間もなく、こぼれ落ちていた。
「そうならないように俺も頑張るし、お前も努力すればいい」
涙を見られまいとソファーに頭を預け目を瞑り、その上にグラスを持ったままの手を被うように置く。
「お前が出来ないことは俺が埋めてやるさ」
椿の言葉に微かに肯く。声に出すと震えてしまいそうだった。
横にいる椿が更に酒を咽に流し込み、飲み干す音が静かな室内に響く。今夜だけだから、明日からはいつもの自分に戻るから…。
だから、今だけは…。
END
Only Special号(2001/02/12発行)初出
2001/10/05改訂
“GREEN GUARDIAN”本編の続編かな?五代くんの仮死(普通心停止したら終わりなんだけど…生き返っちゃから「仮死」ね)で、実はかなり動揺している一条さんがテーマ(笑)
あっ、でも“G.G“では二人は一緒に住んでない設定になっているけど、この話はその後「一条さんは東京に突然出てきたから、官舎も空いてないし、絶対便利な椿さんの所にもぐりこんだって!」という友達との会話が元になり、すぐにそっちに設定を変えちゃいました。だからちょっと噛み合わなくても気にしないでね(~_~;)てへへ
プラウザでお戻りください