星に願いを

スーツのポケットから車の鍵を取り出しながら、駐車場へ向かって歩いていると、1台のオフロード車と1台のバイクが競るようにしながら、ものすごい勢いで県警内へ入ってきた。何事かと、身についている警察官の本能でつい身構えてしまったが、それぞれから降りてきた人物達を見て、その警戒心を解く前に驚きで動きが止まる。

「オレの邪魔しないで下さいよ」

「何だと!お前こそ、さっきから俺の行く手を邪魔しているじゃないか」

「そんなこと無いです。椿さんが邪魔してるんです」

「俺の方が先に、あのサービスエリアに居たんだぞ。後から来たのはお前だろう」

「あ〜っ、ちょ〜っと先にトイレに入ったからって、そんなこと言うんですか?」

「メシだっておごってやったろうに」

「アレだってズルイですよ〜。オレにうどんを食わせておいて、その隙に先に行こうだなんてセコイ手を使ったりして。医者のプライドってモンが無いんですか?椿さん」

「それと医者とどう言う関係があるんだ。それを言うなら、なんだお前は。たかがうどん1杯で吊られやがって。そんなに早く行きたかったんなら、俺の誘いを断って行きゃぁ良かっただろう?それをガツガツガツガツ。しかも海老天そばにカツカレーまで追加で食ったのは何処のどいつだ?」

「若者の単なる自然な欲求じゃないですか。オレまだ、椿さんみたいに枯れてないですもん」

「ほ〜っ、俺は枯れてるのか?じゃぁ、同じ年の一条も枯れてるって言うんだな?」

「そ、そんなこと誰も言ってないじゃないですか!一条さんオレ言ってないですよ…って、一条さん!」

お馬鹿な会話に一時休息を入れた五代は一条を振り返るが、そこには既にその姿は無く、車へと向かう後姿が遥か彼方にあるだけだった。

二人の永遠に何時までも続きそうな会話に頭痛のしてきた一条は、彼らをとっとと見捨てていた。

「おいっ、一条!」

かなりマジに慌てた二人は、一緒に一条を追いかける。

「ちょっと待てよ一条」

「待ってください。一条さん」

ものすごいスピードで一条の前に走り込むと、その勢いのまま二人同時に言い放つ。

「オレと流れ星を見に行きましょう」

「俺と流星を見に行こうぜ」

そして二人は顔を見合わせると同時に驚く。

「お前の目的はそれか?」

「椿さんがここに来た理由はそれだったんですね?」

なんだかんだと言いながら、意外とこの二人、気が合っているんじゃないか?と思ってしまう一条だった。

「今夜は同級生同士水入らずで獅子座流星群を見るんだからな。年下の坊やはおうちに帰ってもう寝なさい」

「なに言ってるんです。オレはこのために地球の反対側から帰ってきたんですよ。いつでも会える椿さんは遠慮してください」

「俺だって大事なクリスマスと正月の夜勤を引き換えにして、今夜の夜勤と明日の休みを手に入れたんだぞ。そんな簡単に譲れるか!」

「それならオレだって美味しい仕事をフイにしてきました!」

一条は、自分と車のドアの間に入り、再び言い争いを始めた二人を、しばらくの間冷たい目で見ていたのだが、さすがに寒いし疲れも出てきたので早く帰ろうかなぁなどと思って、ちょっと懐から銃など抜いてみせ、軽く構えながら静かに呟いた。

「喧嘩をしたいならもっと広い所でやってくれないか?俺はもう帰るんだから」

台詞はあくまでソフトで口調も優しげだったが、冷めた目と行動が一条の心情を素直に表していた。

「あ、あははははは…」

両手をばんざいの形で上げながら、引きつった笑顔を見せる二人。

「まぁ…なっ?一条、あのさ」

「えっと…あの、一条さん」

意味の無い台詞を吐いていると、3人に向かって冷たい風が吹き付ける。

「二人とも、車に乗れ!」

「えっ?」

「えっ?」

銃をしまいながら一条は、ため息を付いて二人を促す。

「今夜の獅子座流星群を二人とも見たいんだろう?なんだかしらないが、何時までもゴチャゴチャとうるさくてかなわないからな。そんなに行きたいんだったら、みんなで行けば良いだろう」

はっきり言って、二人が行きたいのには大人の「理由」と「下心」があったりするのだが、トレードマーク(?)の眉間に皺を寄せた表情を作りそうきっぱり言い切られてしまうと、椿も五代も「3人案」に「否」とは言えなくなってしまう。

仕方が無いので渋々ながら大きく肯くと、一条の車に乗ろうとして気付く。椿の車も五代のバイクも、エンジンもライトも点けっ放しで、駐車場の通路の真ン中に放置したままの状態であった。

「それなら俺の車で行こう。オフロード用だから山の上まで行けるぞ」

一条が車のドアを開けようとしていた所を制し、椿が自分の車まで引っ張っていってしまう。

「五代、待っててやるからバイクを置いてこい」

ちゃっかりと助手席に乗ろうとしていた五代に椿はそう言うと、ニヤリと大人の余裕の笑みを浮かべた。

なにが理由で二人が牽制しあっているのかイマイチ分かっていない一条は、悔しそうな五代と得意げな椿を見ながら首を捻る。そして促されるまま車に乗り込んだ。

「五代をちゃんと待つんだろうな?」

椿の性格を分かっているつもりの一条は、なんだか分からないなりにも、そうクギを指しておく事は忘れない。

「あたりまえだろう…」

悔しそうに言った椿の言葉の端には、舌打ちの音も混じっている感じだ。

ぜーぜー言いながら慌てて後ろのシートに乗り込んでいた五代を確認すると、椿は車を走らせた。

「処で椿。この車どうしたんだ?実家のか?」

今日の椿の車はランドローバーのディスカバリー。冬山仕様にいじってあった。

「今年はスキーでもしようかと思って、秋に買ったんだ」

「赤いのはどうしたんです?」

前席の二人の間に割り込むように、後ろから身体を乗り出して会話に参加する五代。

「マンションの駐車場に置いて来てあるけど、なんだ?」

一般庶民の代表である五代と一条は、呆れた様な、コイツはと言う様な、なんとも複雑な表情を浮かべて椿を無言でみてしまう。

「別に…」

これでまたひとつ、医者に対する偏見とイメージが悪くなったと思う、完全庶民の二人…。

そんな会話を楽しみ(?)つつ、車は一般道から林道へ入り目的の場所へとひた走った。

「その辺の、ちょっと窪んだ辺りに止めてくれ」

一条の指示の通りに車を止めて車外へと出る。

「寒いが少し歩くぞ」

県警の在った市内より、確実に5度以上は気温が低いだろう。かなり寒そうな一条に、椿は長めのダウンジャケットを投げてよこすと、いくつか荷物を持ってドア度閉める。そして五代もなにやら荷物を抱えて降りていた。考えることは同じとばかりに、目配せしてはニヤリとする二人。

車を止めて15分ほど昇っただろうか。獣道同然だった山道が突然、前面の視界が切れて街の明かりと境界線の無いような夜空が広がった。

「すごい…」

椿と五代が感嘆の声を漏らす。

「来るのがちょっと大変だったが、人がいなくて良いだろう?それに見晴らしも抜群だ」

既に夜空には星が流れ出していた。

「あぁ」

「はい」

都会では決して見る事の出来ない星の芸術に、二人は言葉も出ない。

「首が疲れるだろう?座って見た方が見やすいぞ」

ポカンと半分口を開けたような、お間抜けな状態で突っ立ったままの二人に、一条は笑いながら草の生い茂った地面へ座れと誘う。

「そ、そうだな」

「あ、あぁ、はい」

椿も五代も、持ってきた荷物をなにやら開きながらも、チラチラと夜空を眺めていた。

今夜は妙に息の合っている二人は、暖かく座れるように地面にシートやフリース地のブランケットなどを敷くと、更にワラワラと何かを出して来た。

「お前たち…」

しばらくしてそこに出現したのは、どうみてもプチ・ピクニックと言えそうな飲み物や食べ物の数々だった。

「満天の星と数千の流れ星を見ながらの食事。超贅沢!」

ご満悦な椿と。

「まして一条さんまでいて、もう言うこと無しですよ。帰って来て良かったです」

超ご機嫌の五代。

「寒いですから暖かい飲み物でも…」

シートに座り暖かな湯気の立ったコップを片手に、まずは乾杯。

そして3人は再び空を見上げる。

ある一点から四方に向かっていくつもいくつも、星が流れては消えてゆく。

無限に思える、光る星のシャワーたち。

その大自然の奇跡を、3人は何時までも見つめていたのだった。

 

満天の星を見に行こう。

今夜もあなたと。

いつまでも。

 

 

 

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